トガニ〜幼き瞳の告発〜

トガニ〜幼き瞳の告白〜 2012年9月28日 シネマート新宿

この作品は有楽町のヒューマントラストに「サニー〜永遠の友達〜」を観に行って劇場におかれていたチラシと、予告編を観て観たいと思っていたもの。韓国に行くときにはできるだけ現地で映画を観ることにしているのだけど、最近旅行できていなかったから押さえてなかった。

コン・ユは「あなたの初恋を探します」というラブストーリーに出演していたり、ドラマだと「コーヒープリンス1号店」のスマートな役のイメージが強かったけど、今回は妻と死に別れ、病気を抱える娘を持つ教師の役。どんな風に変わるのだろうかという興味もあった。

韓国のドラマは「交通事故」「実は兄妹だったという設定」「不治の病」「実は会社の御曹司と貧乏人の娘」なんてお約束の設定ものが多くて、ベッタベタなものが多いのが特徴だけど、その一方でアクションやバイオレンス系のものが思い切り描ける映画では、暴力シーンが苛烈で目を覆いたくなるものが多い。

古いところで言えばカンヌでも受賞した「オールド・ボーイ」もそうだけど、イ・ヨンエが出た映画「親切なクムジャさん」でもDVの挙げ句のセックス(むしろファック)シーンのひどさは、食卓でのシーンと相まって結構なグロさがあった。(食欲と性欲と睡眠欲・・・三大欲とは良くいったものだな。)ウォンビンの「アジョッシ」なども目の玉をくりぬこうとするシーンはもう・・・。

そんなだから、聴覚障害を持つ子供の学校で行われていた事実を描いたという時、どんなものになるのか、想像がつくだけに怖かった。

あらすじは公式ページに次のとおり記載されている。(一部引用)
公式ホームページ http://dogani.jp/intro.html

恩師の紹介で霧の美しい田舎街=ムジン(霧津)の、聴覚障害者学校に赴任することになった美術教師のカン・イノ(コン・ユ)。妻と死別したイノは、後ろ髪 引かれる思いで体の弱い愛娘・ソリを母親に託し、1人濃い霧の中ソウルから車を走らせる。
途中、車の事故をきっかけに知り合った人権センターの勇ましい幹 事=ソ・ユジン(チョン・ユミ)に成り行きで送ってもらいようやく到着した学校は、どこか異様な雰囲気に包まれていた。ニコニコと人当たりはいいが目の奥 で人を窺うような不気味な校長、そして教職に就くための不正な金を平然と要求してくる校長と瓜二つの双子の弟=行政室長。何より生徒たちのおびえたような 表情に違和感を覚えるイノ。
「この学校は何かおかしい…」 そんなイノの不審を裏付けるような出来事が、次々に起こる。 職員室で平然と生徒を袋叩きにする男性教師、稼動している洗濯機の中に女生徒の顔をおしつけるという常軌を逸した暴行を加える女寮長…。激昂したイノは ぐったりした女生徒を入院させ、ユジンに連絡を取る。だがユジンが女生徒から聞き出した新たな事実は、複数の生徒たちが校長をはじめとする教師たちから、 日常的に性的虐待を受けているというあまりにおぞましいものだった。 怒りに燃えるイノはユジンらと共に、マスコミの力を利用し真実を暴くことを決意。だがその長い戦いがもたらす理不尽さと残酷さを、イノはまだ知らなかっ た…。
田舎の閉鎖的な環境の中で、社会貢献、慈善の方針を打ち出している聴覚障害者の学校(もちろん全寮制)口をきけない子供達に恒常的に行われる体罰性的虐待。それを校長を元とした大人達が行っている。校長達は地元の教会で熱心に活動しているので、周囲の人たちはそんな悪行をしているとは思いも寄らない。警察は口止め料を貰い、校長に荷担している。そんな中にようやく教授からの口添えで赴任できたイノ(コン・ユ)も、最初はその事実を信じられないのだが、だんだんと事の本質が見えてくると、この子達を救わなくては「ならない」という使命を持っていく。

まず、これがノンフィクションということにショックを受けた。・・・が、実は日本でも同じような境遇の子に対する幼児の性的虐待を含めた虐待がニュースになっているんだよね。なぜ、弱いもの、抵抗できないものに対して力を使って服従させようとする事件がなくならないんだろう。

それにしても、「どうやって撮ったの?」と思う。特に暴力シーン。その後、主任の先生の息の根を止めるために自らも鉄道に身を投げる少年ミンスに対する暴力。手で殴る足で蹴るは当たり前で、ゴルフクラブで殴る・・・寸止めにしてもリアル過ぎて、正直ちびりそうになった。何より見えるものだけでなくて音が「ぐちゃ」「ぐしゃ」っていう音がリアル過ぎてぞっとする。

そして小学生の子供を机にテープで縛り付けて校長が犯すシーン。上からカメラでハメ撮りしているという・・・叫ぶのだけど言葉を発せられないから動物のうめきのようで・・・もう最悪な状況を観ている。法廷シーンでそれが展開されるから、スクリーン越しに公判の傍聴者になっているような気分になった。

最終的にはイノたちの策のその更に上を行く狡猾さで、主犯の校長たちは執行猶予を勝ち取ってしまうのだが、その後のイノの世の中に対する失望感が痛々しくて「正義とは何だろう」と考えさせられる。世の中、勧善懲悪にはならないこともあるし、清濁併せ飲まないと生きることは難しいが、この映画で味わう失望感は、むしろ絶望感に近いかもしれない。

主役のコン・ユは、手話を使いながら生徒と意思疎通していて、そのスムーズさが見事。正義感に燃える教師ではあるが、母が自分の家を売って学校への付け届けを作らざるを得ない、それを受け入れざるを得ない自分のふがいなさを好演していた。正義だけでは救えないものもある・・・という現実も見せてくれた。

イノと一緒に戦う人権運動のリーダーのユジン役のチョン・ユミも非常に心が熱い人間で、子供を守るために戦う姿が眩しかった。ミンスのおばあちゃんに同意書を取りに行った学園の寮での指導教師との絡みの場面など、狡猾さの前に何もできなかった自分に腹を立て流す涙が胸にぐさっと刺さった。

そしてなんといっても子供達3人が上手すぎて・・・感情移入しすぎて涙が止まらなかった。イノでなくても「守って上げたい」と思わずには居られない。

映画の公開後、社会現象となり学校は廃校、法律も改正されたという衝撃作であるが、これを女優の前田敦子ちゃんが観たっていう事を実は密かに嬉しく思っている。そして私が観た回では聴覚障害を持つ女の子が2人観に来ていた・・・彼女達はどうこの映画を観たんだろう。目をそらすこともできるけど、観て絶対に損はしない一作。黄金町のジャック&ベティで上映されるということもそのクオリティが評価されているということだろう・・・と私は思っている。お勧めの1作になりました。