記者と皇帝

ネタばれになるので、これから観劇される方はご注意ください。

宙組のみっちゃんこと北翔海莉さんが主演するバウ・ポピュリスト・コメディ「記者と皇帝」を日本青年館に見に行って来ました。
あらすじは、宝塚歌劇の公式HPにあるので、引用すると

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 19世紀後半のサンフランシスコ。破産を契機に、自分が「皇帝」であるという妄想にとりつかれ、その言動が市民の人気を集めた、「初代合衆国皇帝にしてメキシコの守護者」こと「ノートンI世」と、その人気を当て込み、虚実入り混じる記事で部数を競い合う新聞記者達の、奮闘と恋を描く、ポピュリスト・コメディ(人民喜劇)。
 巷間噂される「皇帝の恋」の裏を取る為、お相手と目される人気歌姫が出演する劇場の、楽屋口に群がる各社の新聞記者。部数を伸ばす為、どうにか歌姫のコメントを得ようと必死な面々の中、その夜、色男ぶりを発揮して他社を出し抜いたのは、サンフランシスコ・イブニング紙の自称「敏腕記者」キングだった。
 翌朝、意気揚々と出社するキング。だが、待っていたのは称賛の言葉ではなく、デスクからの叱責であった。別の記者が「皇帝」が送った歌姫へのラブレターをスクープし、掲載していたのである。スクープした記者の名は、ブライ。有る事無い事を書かれる身の上に嫌気が差し、書く側に転身した元踊り子、という変り種の記者だった。
 その日から、キングとブライは、ライバルとして取材を競い合う様になるのだったが、競争心が昂じ過ぎて、とある事件に巻き込まれる事になる。
 ある春の夕刻。何と、市当局に「皇帝」が逮捕されたのだ……。
・・・・・・・・・・・・・・・引用終わり・・・・・・・・・・・・

一言で言えば、勧善懲悪だけど本当に悪い人は出て来ず、大団円となる後味の良い作品でした。
作・演出は大野先生。大野先生の作品は、生徒思いの作品なのでとっても期待。今回も下級生までちゃんと役を振ってあげていて、その中でも研2(宝塚の音楽学校を卒業して配属になった時が研1、それから年々学年が上がる、という仕組み)の生徒さんがキング(みっちゃん)に絡む役だったりと抜擢もあって可能性を感じる作品でした。やはり座付きにはこういう仕事をしてほしい。

作品全体としては、大野先生の作品の、陥りがちなところにはまってしまったかなというのがまず最初の印象でした。ヘイズ・コードと似ているのだけど、あっちは主役2人の話に集中していた感がありました。

19世紀後半のサンフランシスコ。劇中でも南北戦争に北部が勝った!という台詞で説明させていますが、その時代のお話。アメリカは工業化を進めるに当たって、どんどん移民の雇用を進めたということと、アイリッシュなどの移民は労働階級だった事(今でもアメリカの消防士や警察官にはアイリッシュ系が多いそうですが) なんかも織り交ぜつつ描いているのですが、いかんせん、かちゃ(凪七 瑠海)のブライアン(州会議員でサンフランシスコ1・2を争う名家の跡取り)が自分達の既得権益を脅かす移民たちのパワーを恐れて、傀儡市長を立てよう、その選挙に”皇帝を名乗る男”を利用しようとする辺りの描き方が、詰め込み過ぎていて伝わりにくかったように思います。プログラムにはもともと国民群衆劇で企画したけど・・・ってな書きぶりだったので、どうしても要素として残したかったのかもしれません。

だったとしたら、移民におびえる場面で、ブライアンの背後の紗越しに移民たちを登場させているんですが、この人達を正塚先生がよくやるように行ったり来たりと動かして動的な圧迫感を出した方が、言葉で「移民が力を持ってきている」みたいなことをつらつら言わせるよりわかりやすかったのではないかと思いましたね。(イメージで言うと「エリザベート」のミルクの場面みたいな)

それと配役では、このメンバー限定でやるなら、かちゃとまさこさん(十輝 いりす)の演じた新聞社の社長のマークとを入れ替えても良かったかもしれません。役を掘り下げるという意味では。バランスという意味で、私のイメージだとかちゃのブライアンは卒業したあっひーとか、今ならばともちん(悠未 ひろ)くらいがやってちょうどいいような気がしました。かちゃはどうしても女の子に見えてしまう線の細さなんですよね。こればっかりは本人には責任ないですが、ブライアンとマークがキー役なので、もう少しが欲しかったです。

しかし、随所に笑いが出る作品だし、芸達者なみっちゃんも見られるし、下級生は頑張っているし、最後のショーが格好いい!!!タップダンスを大人数でばしっと決めてくれると、それだけでウキウキしますね。良きアメリカのビッグバンド的な音楽の入りでテンション上がります。いい作品だと思います。たぶん、バウに行く頃にはすごくみんながこなれて間が良くなっているんじゃないかと期待できますね。26日一応見られるようなら、見たいと思います。(あ、大丈夫。新大阪と新横浜近いから(爆))

キャストで言えば、みっちゃん。
みっちゃんはどう演じても賛否両論だと思いますが、私は本当に芸達者で、上手いなぁと思いました。歌は絶対的に安定感があるし、ダンスも綺麗だし、普段からお稽古に通っているタップダンスも上手かった。彼女の演じたキングは、嫌味のないお坊ちゃまで、そういう意味で普段から垢抜けないと言われている(苦笑)みっちゃんの個性とぴったりマッチしていました。注意して見ていてもらうと、自分が台詞を言っていないところでも、相手やその他の人の台詞で細かいリアクションしているので、それらを見逃さずにいると、物語がす〜〜〜っと入ってきます。この作品の中で「ダチョウ倶楽部か1?」とか思えるようなギャグをさりげなく織り込んでいるんですが、妙に間が上手いんですよね。面白かったです。大野先生の愛を感じる役所でした。

相手役のロッタはすみれ乃 麗ちゃん。
この人見ているとどうも叶千佳ちゃんを思い出してしまいました。なんとなく風貌も含めて、歌がちと微妙なところとか(苦笑)台詞回しとかが似ている。スキャンダルのためにホテルのダンサーを解雇になり、記事を書く側となった元気なロッタを元気に演じていました。ちょっと歌が厳しいですね。これは要課題だと思います。恋と気づくまでのお芝居は良かったのですが、恋してからのお芝居がちょっとパターンにはまってしまって残念でした。「大声ダイヤモンド」(by AKB48)じゃないですけど「大好きだ、君が大好きだ」って事を大声で言いたいけどっていうところの心情をもう少し丁寧にすると良いんじゃないかなぁと思いました。

かちゃは冒頭に書いたので、それ以外に。
マークのまさこさんは、もうちょっと悪巧みに絡まざるを得なかったところの心情の書き込みが欲しいなぁと思いました。主役に絡む結構いい役なので、やりようによってはすごく印象に残ると思うんですよね。あ、でもまさこさんはショーのところが格好良くて、みっちゃんから聞いているまさこさんと全然印象が違います(笑)

傀儡市長に祭り上げられることになったチェンバレンの風莉 じん。ゴミ拾いの仕事を認められ清掃局長になった人なんですが、頼りなさ気で奥さんの尻に敷かれているチェンバレンを好演していました。

歌では鈴奈さんをはじめ、りりこさんとかもちゃんと歌わせてもらっているし。

クリスティの愛花 ちさきちゃんとかも頑張っていて、ちょっと世界の中心は自分的なお嬢様キャラを好演していました。

が、今回かつをがビビっと来たのはキングの妹役・セーラを演じていた伶美 うららちゃんですね。まず、風貌が首がすっと長くてデコルテが美しかった。顔を見た時の印象はぎすぎすしていないまーちゃん(舞風りら)って感じで、結構こういう顔立ち好きですね。後から研2とわかったのですが、お芝居が上手いんですよ。お兄さんのキングにも絡んだりするんで重要な出番が多いのですが、堂々として台詞回しも明快でした。次回の大劇場作品でどういう役をするのか楽しみになりましたね。

皇帝のソルさん。ちょっとググって見たらこのブログに面白い記事がありました。自分を皇帝と名乗った人が実在したみたいですね。こういう役所は専科のお仕事ですな。

東京が最初ですが、バウでも見て損はないと思います。面白かったですし、やっぱりオリジナルいいですね。