龍星

H17.10.23 星組「龍星」日本青年館

星組全ツー「ベルばら」の対番でとうこちゃんがドラマシティ/青年館公演となっておりました「龍星」。私はとうこちゃんファンなので絶対観たいと思っていたものの、なかなか日曜のチケットは手に入らず。友達に声かけてもらい無事に観劇できました。

作・演出の児玉先生はいろいろ物疑をかもしだすことが多くて、作品にはパクリ疑惑がついて回りますが、人に言わせると「インファナルアフェア」からセリフまでまんま頂いた部分もあるらしく、映画のファンだという知人はかなり憤慨していました。
筋をみると、敵対するものたちが互いに身分を偽って密偵を送り込み、それらが敵陣の中心人物となる設定は確かに同じでした。密偵同士が暗躍して、お互いの動きが全部わかってしまっているところなんかも。(わくわく感はあったけどね)セリフまで同じか否かは確認できませんでしたが。雪組のドラマシティでもマエがあるんだからやめとけばいいのにとは思うんですが、いわゆる「換骨奪胎」とパクリの微妙なラインってとらえる方の感覚もあるのかなぁとは思うんですけど。

児玉先生の作品をほぼ見ているので、デビュー作からの成長ぶりはある意味感慨がありました。繊細というよりも大胆な作風が案外大劇場に合っているんじゃないかと前々から主張しているのと、この人は若手の割には時代物に取り組みところがあって、「宝塚しかできない」っていうのを意識しているんじゃないかと私は理解しています。

セットもドラマシティで上演しただけあって、大がかり。吊り物にガラス(らしきもの)が入っていて正面からだけでなく、特に密談の場面ではのぞき見するような感覚があって演出効果ありましたね。階段をどどんとおいていたり、奥のセリで人の入れ替えをしたりと、あるものはとりあえず使っている感じかな。
音楽に斉藤先生が入っていたので、一部「バビロン?」って思うようなシンセの音色が。ダンスもよく合っていました。この作品、せりふがないような下級生も確かにいるんだけど、ダンス場面で出ていたりしているので、意外に人海戦術でしたね。

さて、物語は・・・プログラムを読んで頭が混乱するより、読まずに見た方がわかりやすいんじゃないの?って思いました(笑)
側室の男子を守るために宰相がしくんだ仕掛けがもとで、名もない孤児とその側室の男子の運命が流転するというもの。入れ違ってしまった人の運命がねじれて、結局本当の自分の名前は持たぬまま身代わりとして生きて行かなくてはならない男の悲劇っていう印象でした。最後の場面で児玉先生がプログラムに書いているように「名前」が彼らを縛っているというのが効いてきます。

面白いなとは思ったんですけど、単純におっかしいなぁと思ったところもあるんですよ。たとえば戦争孤児となった名も無き少年だったはずなのに、お母さんだけはよく覚えていて、後に后となる砂浬に「母に似てる」と思いを寄せちゃうわけですし。・・・だったら自分の名前ぐらい覚えてるでしょ?って思いませんか(笑)いや記憶喪失になったんだったらまだいいんだけど。そうでもなさそうだし。ここらへんが無理無理っぽいんですよね。

龍星のとうこちゃん。
貫禄あります。歌に芝居に気合いが入っていて、妙に複雑に思わせぶりな台詞を聞いていると「この人、このまま宝塚をやめちゃうんじゃないか?」と不安にさせるような感じです。こういう寂しさのある役をやらせたらピカ一じゃないでしょうか。寂しさと言っても親のいない寂しさとか、愛する人を亡くした寂しさとか、そういう単純な文字にできる寂しさだけでなく、本当の名前を持たず、自分そのもののがない寂しさを背負って生きて行かなくてはならない(そしてそれは自分だけの中に封じ込めなくてはならない)その寂しさが、目に宿っているというか。深いなぁと思いました。
あと「おお」と見直したのは南海さんをひょいとお姫様だっこして奥へお休みになってしまうところ(笑)お世辞にも小さいとはいえないまりちゃんを腰痛で休演したこともあるとうこちゃんがだっこするとは!!!男役っすねぇ。
あぁ一日も早く、このがんばりが陽の目を浴びますように・・・

李霧影のレオン
二番手役を堂々とこなしていますね。主にダンス場面を引っ張っていた分担もよかった。この霧影が実は正真正銘の龍星だったことが最後にわかり、とうこちゃんの龍星と戦うのですが、後半の流れが結構あっという間で、もう少し言葉を補ってもいいんじゃない?と思う節もありましたねぇ。それと宋の密偵だったんだから、もう少し密偵っぽい場面もあった方が面白かった。ウメと恋仲になるなんて、なんか時間が経つのが早いなぁと思うのは私だけでしょうか。

砂浬の南海さん
この役がヒロイン役か?と言われるととっても微妙ではあります。確かに龍星の心の中で安息になる人ですけど、いわば母の面影な訳で、少年時代の孤児龍星に寄り添う母というウェイトではないかと思いました。
ただ、砂浬を守るために龍星が鬼になるものの、彼女を愛しているからの行動だってことがやがてわかり龍星のために命を落とすところまでちゃんと書いたのは良かったです。歌もうまかったな。

花蓮のウメ。
ウメはこういうキャラクターが似合います。ひょろっとした男役よりばりばりしているもんねぇ。背中に背負った剣は厳流チックでしたけど(笑)つうか妊娠おそらく3ヶ月くらいだろうにあんだけバトルできるっていうのは・・・母は強いね。ちょびっと「花嫁はギャングスター」(韓国映画)を想像してしまいました。

将軍の星ちゃんと、宰相のソルさん。
さすがに専科さん。しめるっていうのはこういうことですね。ただ、星ちゃんは胸に矢が当たったあと相当苦しんでいるんですけど、部位的にはおそらく即死しちゃうくらいのところではないかと・・・(苦笑)

きんさんの皇后。
怖いです。ここだけ妙に「大奥」なんですけど(笑)生まれてきた龍星の体が弱かったのはなんか策を講じたんじゃないかというような怖い感じがありました。だからインパクトがあったんですけど。(そうそう、龍星が皇帝となった後の粛清が、ドラマ「チャングムの誓い」の中のヨンサングン王の暴虐ぶりに似ているなぁと思いました。いずれにしても昔の時代の処分はかなりエグイですね。)

皇帝のエンディ
皇后に牛耳られているってのがありありで、側室を心配する心がわかりますね。前半部分しか皇帝は出てきませんが、側室も出てこないから場面的には仕方ないか。

阿らん(漢字が出てこない)のちーくんと達らんのゆずるくん。
え〜これって、ヤジさんキタさん?それとも助さん格さん?ってノリで霧影にくっついている二人。死に際がどこかで見たような・・・花吹雪だったっけかな(^^;)ゆずるくんはあまり怖じけていなくて度胸ありました。

飛雪のはやや。
こういうヘスチックな役合っていますねぇ。龍星に忠実な家臣なんだけど、ここまで一緒にいたら、当然本当の皇帝じゃないって知っててもいいんじゃない?って思うのは私だけでしょうか?それとも本当は知っていたの?ちょっと1回じゃわかりませんでしたわ。

あと気になったのは、記憶の母役の羽桜さん。下級生だろうに妙に母役が合っていた。しっとり系ですね。

東宝で下級生がほとんど北京の民(またの名を人間大道具ともいうか)と化しているような作品もあれば、下級生までそれなりに使っている作品もあるし。今の宝塚ってなんか微妙です。下級生ファンも楽しめるような作品を作ってほしいっす。
あと、そろそろ若い先生に大劇場作品を任せてあげてほしいです。歌劇の中の演劇評論の中にも暗に「たいくつだ」とかかれるような作品を書く先生を多用しないでね。