クロユリ団地(ネタバレあり注意)

クロユリ団地』(まだ絶賛上映中なので、途中経過的にネタバレあり)
 2013年5月18日(土)@新宿ピカデリー(舞台挨拶付き)
 2013年5月24日(土)@横浜ブルク13

 背中にじっとり汗をかくホラー映画。Jホラーの第一人者の中田秀夫監督。主演は前田敦子成宮寛貴

 介護士を目指す明日香はクロユリ団地に引っ越してくるが、隣の篠崎の部屋から聞こえる不思議な現象に悩まされる。また団地の砂場で出会ったミノル少年が篠崎と一緒に住んでいるというのも気になる。老々介護の果てに亡くなる老人の話を聞いてから隣の部屋が気になった明日香は篠崎の部屋に足を踏み入れるが壁に爪を立てて絶命している篠崎の姿に衝撃を受ける。その後から次々に奇妙な現象が起きていくのだが…。
 
 私には明日香(前田)の設定が日航機墜落事故御巣鷹山)で奇跡的に生存した12歳の女の子と重なった。確かあの時生存者はわずか4人。そのうち12歳の少女は目の前で父、母、妹が絶命している。彼女はやがて看護師になったと報道された。苦しんでいる誰かを救う側になる…今回の映画の介護士という部分でモチーフにしたのではないかと思われた。

 「明日香に泣いた」「孤独を感じた」という感想が多い中で恐縮だけど、観終わって「明日香の孤独」というより「孤独」は結果であって、明日香が感じているのは、寧ろいつまでも現実を受け入れられない、割り切れず「罪を意識する、罪に意識し続ける」事のように思った。受け入れられないから、明日香は白昼夢と現実の間で止まった時の合間に落ちてしまう。実は冒頭3分位の所で明日香の現状は完全にバラされていたのだが、それを感じさせない絶妙な時空軸だった。背景の光の色も2回見てみると実にうまく使われいることがわかった。

 明日香を助ける清掃員の笹原(成宮)は過去の過ちで心に罪悪感を持っている青年。明日香と笹原は似ていると笹原の同僚の作業員はつぶやき、そのことがラストの鍵になるが、それとは別に笹原の最後の場面(特に台詞)を観ててもしかして彼はミノルの隠喩だったのかなと勝手に思ってしまった。
 
 指切りで始まってしまった崩壊、そして最後に指切りで始めてしまった自らの崩壊。後者の方は過去を受け入れた後の明日香であっただろうから、決心した後の笑顔が菩薩のようだった。それだけに部屋で最後の場面は「同じ事を繰り返してしまうのは嫌だ」という最後のSWITCHが入って鬼気迫るものがあった。
 
 しかし、ミノルをああいう描き方にする必要はあったのかな、とも思う。後半にエスカレートするミノルの部分がそれまでの精神世界と乖離してしまっていたような気がする。明日香は取り憑かれたというより、篠崎やミノルは単なるSWITCHであって、自ら崩壊していってしまったような気がしたから。1回めに観た時は前半が長いかと思ったが、2回めは後半のミノル絡みの部分が長く感じてしまった。(ホラー性をもたせるためなのかもしれないけど。でないと手塚理美さんの立場は…になる。)むしろホラーじゃなくて「ベティ・ブルー」にしても良かったんじゃないか?
 回数を見ると違った見方ができるだろう作品。特にホラーが初めての前田敦子ちゃんの演技は観ていて損はない。多用されるアップの時に過呼吸が出るたび、私もトラウマのように胸が苦しくなった。(これはAKB48ファンにしかわからないと思うけど)ホラーが苦手な人でも観られる作品である。