The Musical AIDAアイーダ

2009(平成21年)/09/13 17時公演 東京国際フォーラムCホール

宝塚星組で公演した作品(王家に捧ぐ歌)で、そのときにも男役ながら女役に挑戦したとうこちゃん(安蘭けい)が、退団後の初舞台としてフューチャーされたのが「The Musical AIDAアイーダ」です。演出は宝塚同様に木村先生(キムシン)。ちなみにこの作品で、松尾芸能賞演劇新人賞を獲っている縁のある作品でもありました。

宝塚版を見ていない方もいるので、宝塚版の比較をしても仕方ないところもありますが、避けては通れないところでもありますので随所に織り込みながら感想などを書いてみたいと思います。

まず、宝塚で常設の大劇場と東京国際フォーラムとのハコの違いを感じました。そしてハコが作品を左右するってことも感じました。東京国際フォーラムだけを見ていると、なんであんなに間延びしたソロが途中で入るんだ?と思う人もいると思うんですが、そういうところはおそらく銀橋(エプロンのように客席に近いところに設けられている花道のようなもの)での場面なんですよね。で、銀橋から宝塚の生徒たちがレーザービームを発して一本釣りしている場面だったりする訳で、後ろは真っ暗で生徒だけにピンが当たっているセットの中で、観客もぐっと集中しているから間延びというよりむしろ「待ってました」状態になっているんだなぁと改めて思いました。
そして宝塚のときには「この程度のセットの使い方しかできないのか!」「むしろ、生徒が動くセットだわ!」と毎回キムシンには怒っている私でありますが、それでもほとんど観音開きのようにしか動かない東京国際フォーラムのセットよりは、チャルさん扮するファラオが宙づりで登場したりしたあの頃が豪華で懐かしいとすら思ってしまいました(苦笑)。どうせなら、せり上がりのセットで地下牢を演出して欲しかったというのは私だけでしょうか。
つまり・・・宝塚の作品を、確かにタイトルロールにしてポイントを変えたとはいえ、もともとが大劇場のために作られた作品であったのだから、同じことを期待して見ていてはダメだったのです。むしろ、東京国際フォーラムでやるのだから中途半端に同じ事をするのではなく、演出そのものをダイナミックに変えてやるべきだったのでは?と思ってしまいました。(小池先生はきっとそれができるはず。)例えば小池先生が大好きな手法、映像を使った演出で人が足りないところを補うとか、もう少しなんとかならなかったのかなと。どっちかというとセットだけで見たら昔の芸術座のような印象すらしてしまいました。
まとめると、エリザベートは、もともとウィーンでの完成品があるので参考になりませんが、東宝でできることは宝塚で同じようにできるけど、宝塚の作品は決して人数の差だけでなく全体作品だから、人を集めても東宝で同じようにはできないのかも?と素朴に感じてしまいました。

人数と書きましたが、この作品、宝塚では無駄に人ばっか出してりゃいいってもんじゃない!と激怒したプリセツカヤ演出のマスゲームのシーンや、やたらわっさわっさ移動しているエチオピアの民やらエジプトの兵士やらの印象が強くて、もっときちんと生徒に役を振れ!と怒りまくっていましたが、今回は怒るどころか、「人は大道具」説は間違いなかったのではないか?とすら思ってしまうほど、人の多さは演出を変えることを身をもって知った次第です。とにかく戦闘のシーンや凱旋のシーンは、がんばっているんだけど、宝塚ファンとしては物足りなかったです。

そういう物足りなさはあるものの、それでも「結構良かったな」と思ったのは、歌う人がみんな上手かったことと、アンサンブルでもちゃんとお芝居していたこと、本物の男性の動きが力強くてリアリティがあったことや、メロディラインがすばらしかったこと、もちろん主要キャストの方々のがんばりがあったからだと思います。しかし、ここでも文句言ってしまうと、メロディラインがよくて歌う人がみんな上手いと、歌詞のお粗末さが目立ってしまって「(苦笑)」な気持ちになってしまったのも正直なところです。だって、「ツヨツヨ、スゴスゴ」ってすごく上手く歌われてみてください・・・ごめんなさいって代わりに謝りたくなってしまいました。ってか、もう少し歌詞を練るとか補作詞入れるとかなんとかなんなかったのかね?>キムシン

私は王家に捧ぐ歌のときに、なんであの作品をうっとうしいメッセージのように思ってしまったのでしょうか?あまりに純粋に演じている生徒たちが気の毒に思ったからなのでしょうか?身近な戦争があったからでしょうか?とまれ、よくわからないのですが、一つだけ言えるのは、宝塚には政治や宗教色の入った作品は厳しいなということです。生徒がまっすぐに演じてしまうだけに、幼気で、邪心がないだけに恐ろしいということかもしれません。今回はアイーダが主役だし、アイーダの愛に的を絞ったような形に持って行っているので、そこらへんが薄れています。でも冷静に考えると、ラダメスを愛するただの女になりたくて、ラダメスから聞いた秘密を父に話してしまったことで、結局はファラオ、兄、エチオピア(国だよ、国)、最終的にはラダメスも死へ追い込んでしまい、父は狂ってしまうという・・・宝塚月組「エル・ドラード」のイグナシオばりの主人公だったりするんですね(をい)
そんなアイーダを一途で、愛に生きた女と思う反面(そういう風に押し通せるのなら幸せなんだろうけど、と思いながら)、私は立場のために本当に愛した男の前でさえも鎧を脱ぐことはできず、国を守らなくてはならないために自分の手で愛する男を死に追いやらなくてはならないアムネリスの方にかなり共感してしまうのでもあります。ってかむしろ「アムネリスわかる!」って感じ?
我慢が似合う年頃な自分でありました(笑)

長々と書いてきましたが、キャストの方に。
まず、ラダメスの伊礼彼方さん。この方の舞台は初めて見ました。いや〜〜〜本当に身体がすてきで、筋肉の付き方が理想的すぎる・・・毎回がっつり抱きしめられているとうこちゃん、なに気にめっちゃ嬉しそうなんですが(苦笑)私もアイーダになりたかったです。って身体ばっか見ながら、歌も聴いていましたが、声が良くて歌えますねぇ。確かエリザでルドルフしたんでしたっけ?この人のルドルフ見てみたかったなぁ。ま、多少ふらっとしたところもありましたけど、ソロや最後にアイーダとデュエットする「月が満ちるころ〜〜」ってあの歌も良かった。感情入って、素で涙ぬぐっていたように見えました。違う舞台でも見てみたいです。

アムネリスのANZAさん。土屋アンナが名前変えて舞台に出てきたのかと思いました。確かにだんちゃん(「金麦」の檀れいでございます。)より全然歌は上手いんだけど、エロっぽさで言えばだんちゃんはかなり負けてなかったねぇ。見栄の切り方とかもだんちゃんはすごかったかも。とはいえ、ANZAさんのアムネリスは、強さがあって良かったと思いました。一番気に入ったのは最後の最後ですかね。ラダメスを逃がしてあげたいみたいなことを話していたところ。ああいう形でしか普通の女になれないのがアムネリスなんだなって悲しくなりました。

ファラオの光枝明彦さんを存じ上げていなくて、プログラムも見ないで入っていたこともあり、最初ファラオはアキラ(林アキラ)さんがやっているのかと思いました(をい)歌が上手くて貫禄ありました。ちゃるさんのような妙なエロっぽさ(まわりの女性の神官と遊んじゃいそうな)がなくて、普通のいい王様って感じではありましたが、その分、ラダメスの要求を聞いてあげる懐の深い王様がぴったしでした。

アモナスロの沢木順さんは、いつ出てくるんだろ?と思って待っていましたが、出てきたらさすが、さすがでした。一瞬ひやっとするような、狂人(のふり)から企みを心に深く閉まった戦敗国の王に戻る瞬間、アイーダだけでなく、私もぎょっとしてしまいました。(ここのとうこちゃんの目が良かったです。)最後にアイーダと約束したのに、銅鑼が3回鳴ったところで鳩を放したように記憶しているんですが、思えばアイーダの愛は、嘘や裏切りの中で咲く花だったのかもしれませんね。

ウバルドの宮川浩さん。これ、よーくん(汐美真帆)がやっていた役でしたねぇ。とうこちゃんと兄妹の役だぁ〜なんて当時は喜んでいたことを思い出しました。歌が上手いし、男性だし、怒りのシーンは迫力がありました。ウバルドだけ完全ボディペインティングでしたね。

神官の林アキラさん。あれ、レ・ミじゃないよね?と思ったりして(笑)神関係多いのかしら?歌は言わずもがなですが、二幕のときの平和ぼけした神官が非常にユニークでした。
平和ぼけといえば、元星組の陽色萌ちゃんが出ていて、やっぱり目鼻立ちがきっちりしていて目立ったなぁ。目立ったついでにキラキラしたビキニでガン踊りしていて、思わずボディラインに釘付けになりました。あの身体を1週間お借りしたいです(笑)楽しいだろうなぁ〜。

って最後にとうこちゃんですが、確かに普通の男性が相手で、芝居にも歌にも無理はないし、がんばっちゃっている感はそれほどでもなかったのですが、とうこちゃんは元々もっと低い音域の方がするっと声が出るのかな?と思ってしまいました。若干、声が細い感じがしてしまったんですよね。もっと圧倒的に歌で掴まれたかったなと思いました。(疲れていただけか?)それができるだろうし、期待していたのでちょっと残念でした。たぶん、ハコも違うし手探りしているところがあったのかもしれませんね。もっと動いちゃっていいんじゃない?という気もしました。(演出がそうさせたんでしょうけど)
それにしてもラダメスに抱きしめられているところを見ると、よくこんな細さでやってたねって感心したり。あの目がうるっと来ているのを見ると「あぁとうこちゃんだ」と思ったりと、これからどういう作品に出るのかわかりませんが、楽しみになりますね。

これ、キムシンの演出じゃなくて、極端な話、ファンタジスタ・オギー(荻田浩一)のアイーダだったらどんな風になるだろうかと、妄想してしまいました。絶対そういうことにはならないとは思いますが。

大阪でも梅田でこの後公演がありますので、すばらしいメロディと男子のモムチャン(いい身体)満載のこの作品、一度見て損はないと思います。