虹の女神

僕たちの戦争」「のだめカンタービレ」「冗談じゃない!」あたりから私の中の「来てる感」があった上野樹里ちゃん。「ラスト・フレンズ」以来、すっかりファンになってしまって、大学生になった恩恵の一つ(別に大学生にならなくても・・・という声は無視して)で、DVDを借りて来たのが虹の女神です。

プロデュースが岩井俊二さんで、脚本も原作者の桜井亜美さんと共同執筆しているようですね(執筆名は岩井を名乗っていませんが。)岩井俊二監督というと、「Love Letter」や「リリイ・シュシュのすべて」が映画では有名なようですが・・・ようですがというのは私が見ていないからで・・・私の中で岩井監督は今はなきバンド東京少年のビデオクリップでの印象が強烈なのです。

ストーリーは公式ページを参考にしていただくとして。

こんなに身近にいたのに、素直に好きだと言えなくて、その気持ちがわかったのはもうこの世では会えなくなってからで・・・という物語。
樹里ちゃん演じるあおいは最初から死んでしまった設定となるので、その後は全て回想の場面で出てきます。バイト先の同僚を好きになってしまった大学生の岸田くん(市原隼人くん)とひょんなことから知り合いとなり、同じ大学で映画研究会の仲間として過ごすのだけど、近すぎて、一緒にいることが普通すぎて、好きという気持ちに素直になれなくて、そして女の子の気持ちに鈍感な岸田くんだったりするもんだから、あおいは「好き」の言葉を飲み込んだまま海外に旅立ち、そして命を落としてしまう。
岸田くんはあおいの抜けた後に就職をするような形になるのだけど、時にふざけてあおいにプロポーズしたりする悪意はないけど罪作りなヤツだったりする。でもいざ、あおいが死んでしまってから、あおいの残した岸田くんへの素直な気持ちを見て、自分の中で本当に大きな存在だったということに気づいてしまう。
あおいの「死」がなければ、陳腐なまでに、この二人がお互いの気持ちを打ち明けたりするのは何年か後に再会してお互いがそれなりに家庭をもったりした中で「あのときさ・・・」なんて話になるんだろうけど、「死」によって汚されない崇高な感情にしたところが観た後の「きゅん」につながっている。大学生の「若さ」を切り取っていて、すでにあのころにはない大人が観た時には、懐かしさとあの頃に戻れない切なさを感じるのではないでしょうか。その意味で、罪作りな一作だと思います。

映画中映画としてあおいが監督している「THE END OF THE WORLD」で、あおいは主演し、岸田くんとキスシーンもしたりするのですが、そこで岸田くんの唇を噛んでしまう下りなど、岸田くんを好きになっているあおいの、本当のファーストキスを映画の中で撮らなくてはならなくなっちゃったという動揺とかが絶妙に出ているのです。結局その映画の終わりは地球の滅亡ではなくてあおい演じる女の子の死で終わってしまうのですが、その女の子の彼にとって彼女が死んでしまうことは「その瞬間の地球の滅亡」に等しい失望感と同じなんじゃないでしょうかね。そしてそれをあおいが亡くなった後に観ている岸田くんもまた、映画中映画の彼なのです。

この作品で、蒼井優ちゃんがあおいの妹(盲目の設定)役で出演していて、これまた非常に存在感があります。彼女は目は見えないけど、姉のあおいも岸田くんもお互いが好きだということが見えていた。岸田くんがあおいの残したメッセージを観て泣いている時に「ばかだねぇ、お姉ちゃんも岸田さんも」という台詞に、見えているから気づかない「見えない感情」に彼女は温かく同情してしまうのです。本当に大切なものは目に見えないものなんだよ・・・という、星の王子さまの台詞がまた頭をよぎったことは言うまでもありませんね。優ちゃんのこの透明感、本当にすごいです。

あと、WINKの相田さんが、パーティで岸田くんと知り合い、つきあうことになる恋人なんですが、34歳であることをごまかし26歳ということで近づく役で出演。設定上バツ1で年齢もサバ読んでいるので、嘘に嘘を重ねられたことで岸田くんは怒って「出て行って」と言うのですが、彼女の「34歳だといったらつきあってくれた?」という言葉はかなりリアリティがありました。だって、結局「見た目」「事実からのイメージ」という見えるもので人はどうにでも動かされてしまうというものの象徴だったから。そんなことで人は簡単に左右されてしまうのですよ。

言いたくて、言い出せなくて、そのもどかしさを久しぶりに思い出させてくれました。本当に難しいですね、好きって言葉は。