天然スパイラル第12回公演 トワイライト王女

天然スパイラル第12回公演 トワイライト王女〜孤独が中途半端で困る〜
三鷹市芸術文化センター・星のホール

天然スパイラルの久しぶりの公演とあって、三鷹市まで出かけた。ジブリの美術館だかがあるんだっけか?くらいのノリで、三鷹市民の皆様すいません。
当日は月組公演を見た後で、秋葉原で買い物をした後に、そのまま総武線・中央線で一本。電車の中で爆睡したら、あっという間に三鷹についていた。

今回なぜ三鷹だったのかというと、三鷹市芸術文化センターでは「MITAKA Next Selection 8th」と銘打ち

日本の演劇の未来を担うべく将来性を感じる劇団をご紹介したいと、当財団の演劇担当が懸命に劇場に足を運んで見つけ出した劇団を集めて贈る"Next" Selection。8回目を迎える今年は、4劇団を選びました。

ということで、天然スパイラルがそのトリの劇団だったのだ。確かにここのところ川崎のラゾーナ・プラザソル(200席)と今回の三鷹(250席)とどんどんと公演する劇場のキャパが大きくなってきて、認知度も上がってきている劇団であることは間違いない。

私が天然スパイラルを見たのは第7回公演「麗しき崩壊」が初めてで、天スパ番外編の公演も含めて幸いにも今まで全公演見ている。天スパの作品は作者の金房さんの時事ネタを折り込み、根性の入ったギャグ(作者は実は芸人じゃないかとまで思っている私)、そして毒が非常に織り込まれる。それはそれで面白いのだけど、ともすると広い舞台ではこじんまりと見えてしまう節もあり、前回の川崎での公演は2時間の公演時間がとても長く感じてしまったというのが本音のところだった。だから、今回さらにハコが大きくなっているところで、どれくらい内輪な部分を出さずに広い場所に耐えられるストーリーになるか、楽しみだった。

今回の「トワイライト王女」は今までの公演中一番出演者が多かったらしく、計16名。中には2役している人もいた。天スパの6人に加え、天スパの公演には欠かせない千葉おもちゃさん、甘城美典さん、梨澤慧以子さん、武田佑子さん、田山ゆきさん、そして今回初の真白ふありさん(元ジェンヌ)、浜本ゆたかさん、高橋裕太さん、豊永伸一郎さん、武藤心平さんである。個人的にふありちゃんは宝塚時代から面識があったため、彼女を見に行くのももう一つの楽しみだった。

チラシから筋を引用すると、

昔々、とあるフランスっぽい国に、いわゆるお姫様が住んでいました。
その姫は、東西南北どれかの魔女に呪われており、
ブルーになるとため息が毒気を帯びるという厄介な性質を抱えておりました。
ある日、尻軽の妖精に己の忌まわしき諸事情を聞かされた姫はm、
生まれ育ったお城を飛び出し魔女探しの旅に出ます。
挙げ句の果てに恋をして、「姫やめようか」とまで思います。
が、世知辛くシビアな現実が、
姫の運命を思わぬ方向へ押し流すことになるのでした。

というもの。

歌あり、踊りあり、時事ネタを入れて笑わせたり下ネタを入れて笑わせたり、毒っぽいところもあったりと相変わらず作者のセンスがさえていたけど、何より良かったのは2時間持った、ということだった。作者のメッセージを、すでにできあがっているストーリーを組み合わせた上に乗せて(途中でどんでん返しがあって、それまでの魔女探しはどうなるの?とも思ったが)うまいこと最後までつないでいた。エピソードが時事的だから古くさい感じがそれほどしなかったのも良かった。最初はオムニバスしかできない劇団止まりかなという印象が、すっかり進化したなぁ。

人によっては「マクベスのモチーフが…」という方もいるようだ。それは東西南北の魔女が女王ダルセーニョの長女マーブルに呪いをかけるところの部分なのかもしれないが、その呪いを解くためにマーブルは侍女と家臣を連れて魔女が住む「シタビの森」に向かう流れは、ジブリ作品を知らない私の中の勝手なジブリのイメージで、何かの作品をモチーフに採ったのでは?と思ったほど。(三鷹サービスか?)魔女が出てくるところですでにファンタジーで、それに輪をかけるように最後に「ローマの休日」が出てきたところは、現実世界の逃げられない問題を天スパ流のファンタジーで消化(昇華)したというような印象だった。最後の歌になぞらえれば「愛は勝つ」と信じたい、というところか。

マーブルが訪れるシタビの森というのは、低所得層で税金を払えないような民衆が追いやられている森。実は女王ダルセーニョは再開発をすすめてシタビの森からこの民衆を追い払うという計画をしていた。そんな中に迷い込んだ(計画的に導かれた)マーブルが、アル中の姉から暴力を振るわれているアランを好きになり、最後には森の人たちを、アランを救うために城に戻って王位を継ぐという物語なのである。後半が特に「ローマの休日」で、マーブルが城から民衆に手を振っている姿を見ているアランの構図は最後の記者会見のようだった(笑)
「計画的に導かれた」と書いたのは、王国ですでに250年だか死刑執行を失敗しているMさん(要はマリーアントワネット)が、フランスのような間違いを犯さないためにもマーブルをはめた、というのが裏の筋なんですが、おわかりのように、微妙にベルサイユのばら…ヅカネタも押さえています。(ここら辺は中目黒歌劇団で宝塚をパクるだけありますが。)

今回、主役のマーブルに元ジェンヌのふありちゃんが配役されたのは、成功だった。
ふありちゃんが「すごい」と思ったのは、空間の使い方で、やっぱり伊達に元ジェンヌじゃないというか、こればっかりは経験の差がはっきり出てしまった。感覚的に立っている時に感じてしまう空間の差。これは数の問題でどうしようもないことかも。それと作者が、うまいこと元ジェンヌの特色を使っていた。四季に独特の発声法があるのと同じで、元ジェンヌの台詞回しってどこか一流の癖があるようで他の役者さんとちょっと異なる部分が、逆に浮世離れした姫のキャラクターを自然に演出していた。それにふありちゃんが無理矢理周りの人の演技に合わせていないところが良かった。あと、伊達に世界各国のお話をやっている劇団じゃないですね>宝塚 コスチューム系の所作の美しいこと。これ、絶対財産だと思った。

ダルセーニョのみのさんは、こういうどっかーんとした女王も似合うが、やっぱりそれより良かったのは男役のドリトスといったら悪いだろうか!?天スパおなじみの男役、おもちゃさんのファシズム、金房さんのシリアス、みのさんのドリトス最高だった。(でも個人的には良さんの男役カムバックなんだけど)

そこまで言うかの下ネタ次女のヴィオラと緑妖精ライム(実はカノン)の梨澤さん。ちょっとたくましくなっていたような…。アランの幼なじみでマーブルを目の敵にするジュディスの茜さん。この方は「デストロイヤー花」の時にも泣かせる台詞をさりげなくつぶやく、本音芝居が絶妙。おそらく作者はここ絶対意識しているハズ。

眉毛を落として迫力満点だったあすかさんのエレインと、Mさん。Mさんの役は宝塚ファンのあすかさんのために付けたんじゃないかと思っていたりして。私の中で実は密かに「萌えキャラ」なのか田山さん。今回はアル中で弟に暴力を振るってしまう役で、さらっと可愛い顔しているので伝わるギャップが痛いくらいだった。

男性陣はアランの浜本さんが舞台をかけずり回り熱演。でも一人で浪々と台詞をいうところでは妙な会場の引きが…。なんか緊張しすぎてるのか?。変な江戸弁を使うオダギリ役の高橋さんはなんとなく間がいまいちな感じが。ヘンリーとショパンの武藤さんは、前半と後半と全く違う役で面白かった。ただ総じて、天スパの中で男性のキャストが「絶妙!」と思うような場面が少ない気がする。これは単に役者だけの問題か?という気もする。

実はフランスでもなく、ローマでもなく、見ている観客一人一人に対して「それは、あなたのお話ですよ」と言わせるような、魔法をかけていたのは実はマーブルだった、みたいな気持ちで描かれた役がマーブルで、純粋に「だって、愛が勝つ世の中じゃなきゃダメだろ?」っていうココロが伝わったというか。作者のココロの代弁者があの王女だったんだろう。
愛する人を守るために国に戻り王位を継ぐ。それは決して負けでもなくて、絶対愛で「勝ち」なんだと。「愛」って相手を受け止めることなんじゃない?というような作者の投げかけが聞こえるようだった。

追伸
今回、セリ、大がかりな吊りモノにセット展開があって、やっぱり舞台って中身だけではなくてセット、照明、音楽その他もろもろの総合芸術だなと思った。