天然スパイラル第9回公演「バス女」

2005年10月15・16日天然スパイラル第9回公演「バス女」池袋シアターグリーン

私は天スパのお芝居が好きだ。つうか、かなり愛しちゃっているくらいだと思う。好きに理由はいらない。以上。





というのが今回の感想であり、一番いいたいことなのであります。

池袋シアターグリーンで行われた天然スパイラル第9回公演「バス女」(ばすおんなではなくてばすじょと発音するのが正しい。)を見てきました。本当は青年館も東宝も見なくちゃなんだけど、申し訳ないがこっちを優先して見てきました。

天然スパイラルの感想は今まで2回くらい観劇日誌でも書いたので、海馬の端っこくらいの記憶にあるかもしれませんが、初めて読んでいただいた方もいると思うので説明をしますと、ミュージカル系の専門学校の同期生が集まった女子6人の演劇集団で、ミュージカル科出身ということもあり、劇中にダンスや歌も入ったり、中には宝塚をパロった中目黒歌劇団なんてものをやってしまったりという結構マルチな劇団なのであります。この6人が身長からルックスからキャラクターから個性が非常にあって、そしてエネルギッシュという、見ているだけで元気になり、見ているだけで吹き出してしまうほどの毒っ気があるお芝居を毎回やってくれます。ちなみに作・演出は代表の金房実加さん。見た目男役?と思えるほどでありますし、その美貌からあのような毒がでるのか。。。そのギャップが衝撃的でもあります。

私は今まで4回公演を見ているのですが、いずれもオムニバス形式のお芝居でした。今回もそう。オムニバスというとバラバラなものの中に本質的な共通点があったりというものを想像しやすいと思いますが、天スパの場合、それだけではなくて、次の違うシチュエーションの中に前の場面で出てきたキャラクターを忍ばせる技と、その物語の連鎖が最終的に最初の場面とつながっていて、そこからまたはじめてもおかしくないようなそういうスパイラル(螺旋)構造になっているです。これは見事です。マジでうなりました。
今回は次のような構成になっていました。

STORY1 プロローグ
STORY2 アメリカンホームダイジェスト1
STORY3 小津は魔法使い
STORY4 接客業
STORY5 ナイスコンビ
STORY6 ガールズトーク
STORY7 がんばれデスメタル
STORY8 力女VSバス團
STORY9 ティータイム
STORY10 関東連合女王座決定戦
STORY11 S&S
STORY12 クールガイみつお1
STORY13 がんばれデスメタル
STORY14 アメリカンホームダイジェスト2
STORY15 クールガイみつお2
STORY16 アメリカンホームダイジェスト3
STORY17 バス女

元々は、伝説の総長が抜けた後の池袋をどっちの族が仕切るかの抗争をしているレディースっていうのが設定。男とも女ともわからないその総長の意志を継ぐためにむやみにガンとばし、タイマン張って10年間も戦い続けていく訳なんだけど、コンビニでバイトしちゃったり、子供3人作ってもまだ族をやめないって子もいたりと、俯瞰で見たら、くだらない争いを長々と続けているなぁって思えるような子供の争いなのです。
でもそんなまっすぐな「強くなりたい」と願って戦い続けているレディースたちをこの作者はきっと温かい目で見ているし、こだわりや思いだけで戦えるこいつらってカッコイイし、愛しいし、自分たちもこうありたいってきっと思っているんだろうなという作品でした。そう、何より自分の作品に愛情があるというのが、言葉ではなくて感覚でわかったのが私には感動だったのです。
実加さんはプログラムの挨拶で「わたしたちに世界を救うことはできないけど、せめて見に来て頂いたこの時間、厄介な現実を忘れて楽しんで頂けたらうれしいです。」(プログラムより引用)と書いているとおり、本当にガールズファイト!な作品でした。

オムニバスという特徴とともに、天スパの作品に共通していえるのは、鋭い社会観察の元にねられた作品だということです。ある作品ではR指定とはいうものの、某皇居周辺ネタをパロっていたし(それは、一般平民からしたら、そういうこともありかもねみたいな)虚をつくものだったり、物事の裏読みだったりというものです。芝居で笑う要素って普通と普通がずれた”間”もあるけど、こういった人の発想がちょこっとずれた”間”で知的にドッカンと笑わせてくれるのが気持ちいい。それを今の20代の語り口で、微妙に30歳前半が持つノスタルジーを混ぜて演じているのです。

1回目、私は見ていて、一瞬政治色のほとんどない野田秀樹の作品のようだと思いました。しかし、政治色がほとんど無いわけではなく、毒薬を甘いオブラートに包んでいるだけで、決して社会性や政治性がないわけではありませんでした。蛙を水の中に入れてからだんだんに熱していくとゆで蛙になってしまうでしょう?私はアメリカンホームダイジェスト(アメリカかぶれの男が日本の森の中で、アメリカのカントリー生活を送り、妻や子にもマリアだのドロシーだのを強制し、アメリカンライフを楽しんでいる、というシチュエーション)で、「私たちがすてきだと信じているアメリカンライフって何だ?」…痛烈なアメリカ批判と日本人批判を見ましたね。テレビで見た楽しそうなアメリカンライフが、ぼろぼろと崩れていく様がシニカルでした。
この作品、生の言葉でダイレクトに伝えるだけでなく、間接話法へと語り口が移っていくように、ある意味進化したような気がします。(しかし、それゆえか、途中長いかなと思う場面もあった。)

そんな脚本を支えるのは、やはりキャスト。今回は客演が6人(うち男性1人)の12人での公演でした。ダンサーだろうと思う中塚さん、小此木さん、ものすごく可愛い(娘役トップにしても何の違和感もない)室伏さん、お母さんやおばさんキャラが多いけどかなり技ありの竹内さん、隣にいるお兄さん(このメンバーは男役もやるので)・お姉さん的な田中さん、本人は控えめにしているのかもしれないけど目立っている金房さんのほかに、とにかくおもしろくて彼女のキャラ大好きな千葉さん(マリッジブルー)、天スパでよく客演されている丹羽さん、栃木なまりが妙にうまかった平島さん、この方どっかで見たことあるの甘城さん、女学生が妙に似合っていた武田さん、そして楽しそうに仮面舞踏会を踊っていた小椋さん。この「楽しい」オーラがまぶしかったです。かなり個性の強い12人をよくバランスよくまとめているなぁと関心しました。

笑えて、なんとなく元気でて、また見てみたいと思う芝居で、本当に厄介すぎる現実を一瞬忘れることができました。