ママがわたしにいったこと

ママがわたしに言ったこと

とにかく出演者で「観る!」と決めた「ママがわたしに言ったこと」でした。木内みどり渡辺えり子大竹しのぶ富田靖子(敬称略)の4人。大竹さんの舞台はともかく、他の3人を舞台で観るのは初めてで、ワクワクして青山円形劇場に行ってまいりました。

客席の年齢層は30代〜50代くらいが多かったです。女性客も多かったですが、カップルで来られている人も数多く見受けられました。私の気のせいかもしれないけど、堺雅人さんがいたような気がするんです・・・後ろ斜めの席に。勝手にドキドキしておりました。

あらすじ(プログラムから転載。かっこ書きはかつをが追加)

ドリス(木内)、マーガレット(渡辺)、ジャッキー(大竹)、ロージー(富田)。
彼女たちはあろうことか、自分たちの「ママ」を殺そうと相談している。
けれど、それは決して成功することのない企みだ。なぜならドリスはマーガレットの、マーガレットはジャッキーの、ジャッキーはロージーの「ママ」なのだから。
家庭を守ることが人生だったドリス、家族を思いながらも仕事を持とうと奮戦するマーガレット、自身の心と家族に大きな隠し事をしながらも社会的成功を追い求めるジャッキー、保守的な”母”と奔放な”姉”の間で揺れるロージー
彼女たちは異なる時代・異なるものと闘い、泣き笑いしながら精一杯に生きている4人の母と娘だ。
少女の憧れ、思春期の物思い、恋のときめき、社会に出る戸惑い、結婚の幸福と失望、命を授かる喜びと畏れ、そして老いのなかでたどりつく穏やかな諦め。
ひと色ではない、けれどひとつに結ばれている彼女たちの人生が時を超えて出会うとき、その先に見えるものは・・・。

ネタばれをしてしまうと、ジャッキーはロージーの母ですが、未婚だったために母のマーガレットが自分の娘として育てるのです。
劇の冒頭、4人の子供たちはママを殺すという相談をし、それをどう実行するかをジャッキーが説明していきながら、物語はあっという間に時空を飛び、それぞれが娘だったころ、母となった頃と行ったりきたりしていきます。て言うとあっちいったりこっちいったりややこしくなりそうであるのに、これが全くそういうことがない。今どこの年代にいるのかが非常にわかりやすくて、出演者もそれっぽく見えるのがすごいところ。特にこういう役をやると秀逸なのが大竹さんで、一瞬のうちに子供、娘、母となっている。もう見事としかいいようのない自然体の説得力。やっぱり北島マヤはこの人に演じて欲しいです(話が違うって)

結局4人の企みは成功しない。ただ、最初に「ママを殺す」と提案したジャッキーの母・マーガレットが病気で唯一死んでしまう設定になっているんです。ジャッキーはちゃんと仕事で男と対等に張り合えて、シングルマザーのどこが悪い、私は子供が欲しいのよっていう類型的なキャリアの設定であるんだけど、そのジャッキーが母の死の前に弱さをさらけ出し、慟哭するのです。これを観たときに、物語の中でどの世代でも共通するのは「母と娘は永遠に片思いな関係なのかもしれない」ってことでした。

「永遠に片思い」というその心は、結局生きているうちに両思いになれない、お互い気持ちはわかっているのに、そのもう一歩を踏み出せないで、時に反目しあったりしてしまう。母が亡くなったときにようやく娘は母の思いの深さを知り、母はそんな娘を哀しいと思うわけでなく温かく見つめている・・・そんな感じでしょうか。思いが深い分、母は娘を見捨てることはできないんじゃないかなと。無条件で負けている感じというか。そんなイメージをこの作品から受けました。

それぞれの年代で女性の姿を描いているから、ともすれば女性論とかを言いたくなりそうだけど、私は別にそんなことはどうでもいいと思う。だってこれが書かれているのは1987年みたいだし、今から20年近く前の女性論を今と同じ舞台で論じることは無意味だから。それよりも、この作品が英国で高い評価を受けて、なおかつ日本で上演するという意義の方を考えたい。

木内さんの朴訥としたキャラクターは、保守的で、その中で「選ぶ」ということに対する憧れがよかった。
渡辺さんは、失礼なこと言いますがすごく動きがポップだった。台詞も確かだし、ジャッキーとの口論のシーンなんてものすごい迫力。父が亡くなった後の家の整理の時に、ジャッキー演じる大竹さんとのやりとりはおそらく毎回アドリブが入っていたのでは?素で面白かったです。
大竹さんは先ほども書いたように、天才としかいいようがないです。ますます好きになりました。
富田さんは、目がいい。目の力に引き込まれました。先輩の胸を借りて生き生きと走り回る快活なロージーでした。

セットの上下には刺繍のオブジェがすえられている。円形を生かして四方から見られる設定で、通路から何度も出演者が登場するという緊張感もありました。
プログラムには出演者の母に対する思いが書かれていて、これも読み応えがありました。観劇後、思わず母に電話をして声を聞いた私です。いい作品でした。

作品名 ママがわたしに言ったこと
    (作:シャーロット・キートリー 演出:鈴木 勝秀)
観劇日 2004/09/15
場 所 青山円形劇場
チケット代 6500円(★×5)