マルゴ 王妃にして王女

マルゴ 王妃にして王女

スパークヒップスが企画するお芝居で、人魚姫に引き続き、沢樹くるみちゃんが主演する「マルゴ 王妃にして王女」を築地ブディストホールに見に行きました。スパークヒップスの作品は、荻田先生がよく作・演出しているので、それもあってです。 狭い舞台に大きなダイニングテーブルがあって、下手には鏡、テーブルの奥には待ち合わせ場所のようにも見える椅子とテーブル。衣装は新着らしく、豪華に作りこんでいました。(※舞台美術:新宮有紀さん、衣装:河底美由紀)音楽がなくずっとひたすらストレートプレイで2時間30分です。

パンフレットからあらすじを抜粋すると

混迷を極めた16世紀フランスの動乱の鍵を握る、三人のアンリとマルゴの恋は、終末期のヴァロア朝をただ一人支えた女傑カトリーヌ・ド・メディシスにより、時に結ばれ、時に引き裂かれる。 マルゴは母と対話する。 それは、フランスの束の間の歴史を語ると共に、奔放で自堕落なマルゴの恋の告白ともなり、母カトリーヌの政治的謀略の懺悔ともなる。二人は互いに嫌悪を募らせ罵り合う。この母娘に、情愛の通じる瞬間があるのか。謝罪と和解の可能性があるのか。しかし、それらはすべて不毛なことなのか。マルゴのめくるめく恋の中に、母カトリーヌはぴったりと寄り添い、マルゴを背中から凝視する。マルゴ、王妃にして王女は、恋に悩みながらその母との確執に身悶えする……。

というお話。王妃マルゴは映画にもなっていますよね。今回は母親の存在がとっても重要な作りのお芝居でした。当初マルゴが現れた時に、彼女は黒いヴェールを被っていたことから、誰かの葬式の後か?と思ったのですが、彼女が眠っていたのは黄泉の時間、来客は自分の母親。実は全員が死んでいる状態でのあの世とこの世の混沌とした中での物語だったのです。(観劇後に、関係者に確認^^;)

一言で言えば「世界ふしぎ発見!?マルゴ 王妃にして王女?」でした。世界史を選択していない私には、もう頭がこんがらがるくらい。だってカタカナの名前だけでもひーひーなのに、アンリだけでも3人出てくるし、ヴァロア朝だの、メディチ家だの、ブルボン家(これはさすがにベルばら見ていたから知っているけど)だのでもう。ユグノーカトリックの対立、ユグノー戦争など、やはりフランスの歴史的背景を知っているといないとでは面白みが全然違っただろうと思います。日本の宮家の家計図をつらつらと読めって言われてもできないでしょ?そんな感じです。

加えて、シェイクスピアもびっくりなくらいの難しい・硬い言葉のオンパレード(宮廷のお話だから仕方ないとはいえ)とにかく台詞が長い。橋田ドラマかと思いました(苦笑)。(※にもかかわらず、脚本の上がりはかなり遅かったようです)その割には「アンリ」と呼びかける度に「どのアンリ?」「誰誰のアンリ」と丁寧に説明を入れてくれるので(笑)混乱しないで観ることができました。アンリを演じていた劇団昴の岩田翼さんも演じ分けがうまかったです。

冒頭、鏡の前で自分の姿を映すマルゴに母親を正面から重ね合わせるあたりなどは、この二人は本当に鏡同士のようで似ているからこそ憎悪が深くなる伏線のように見せていてオギーの巧さがあります。マルゴの奔放な情愛。マルゴと兄アンリとの近親相姦や、母が見せる兄アンリへの偏執的な愛、自分が母への当てつけ体を武器にして男たちを手玉に取るマルゴと、フランスでの権力に執着する母。「売女!」「淫売!」などなど、グロな台詞にややうんざりもしましたねぇ。こんな言葉で罵られたら、母の愛をただ求めていた娘はどうにでもなれって思っちゃうでしょうね。そしてイタリアからやってきたカトリーヌが自分の居場所を求めながらも、権力を維持できず、マルゴに取って代わられる。そして憎んでいたブルボン家の妻になったマルゴはまた、世継ぎを設けるために夫から離婚を申し付けられ、王妃でありながら夫の妹としていなくてはならなくなる。なんと夫の妻として輿入れするのはイタリアからやってきた金持ちの家柄の女だった。それはかつて自分の母がそうだったように因果はマルゴまで巡って来るというどんでん返しがあって、最後は唸ってしまうんですよね。 確かにこの込み入った人間関係をうまく裁いて、歴史もののお芝居に仕立てたオギーはすごい。ただ、全編がこういう調子なので、食傷気味になってしまうと共に、オギーの二面性にかなり怖さを感じました。宝塚の時は本当に抑圧されているだけであって本当はこういう作品の方が彼の地の部分なのではないかと、むしろ齋藤先生と同じ類のものがあるんじゃないかと思いました。その並々ならぬ執着心に寒いものを感じてしまったのも事実です。天才がゆえなんでしょうかねぇ。

くるみちゃんは、ぱっと見「若い頃の広末?」と(笑)。かわいいですね、相変わらず。前作の「人魚姫」を見た時よりもかなりリラックスしているなという印象でした。かなり際どい役が、清潔感を失わずに見えてしまうのは、やっぱり彼女のキャラクターなのでしょう。あまりエロを感じなかったです。長い台詞をほとんど噛まずにちゃんと話していたのを見るにつけ、もう少し宝塚で活躍する場があったらねぇと残念でした。

アンリの岩田さんは、間近で見るとなかなかかわいくカッコいい人でした。ちゃんと追っかけているファンがいましたね。最初に書きましたが、この人の演じ分けがあったから、わかりやすかったといっても過言ではないです。

香坂さんのカトリーヌは、最初まったく話をしないので、マルゴの影であって鏡なのかと思っていました。一旦話始めると語気が荒い、憎しみの籠った台詞ばかりで体力を使うでしょうね。力量あるなと思いました。確かにくるみちゃんに似ているなと思う瞬間があったりして、親子にしたのはさすがの配役の妙です。カトリーヌは自分が自分でいるためには権力を自分のものとしなくてはならず、時の権力者がそうしたように占星術者に未来を占わせ、自分もその未来に翻弄され、失脚する。最後は娘とわかりあうというより、娘へのいたわりを感じました。(同時に自分へのいたわりでもあるんでしょうけど)

舞台の箱にしては6,000円というのはちと高額。もう少し値段を下げれば席も全部埋まるんじゃないかなと思いますが。

公演情報 2004年05月12日(水)?16日(日)
場所 築地ブディストホール
作・演出 荻田 浩一(宝塚歌劇団) スパーク・ヒップス
チケット6,000円に対して☆×3.5