ブラック・スワン

2011年5月15日 ブラック・スワン
映画の予告で見た時には、ここまで怖いとは思わず、

あっちゃんやたかみなも見たし〜やっぱりファンレター書くにも見とかなくちゃ

とか軽い気持ちで見たんだけど、例えがよろしくないことを承知の上で言うと、何度もお尻がきゅっとしまってしまう場面が出てきて、思わず耳をふさいでしまった。R15指定侮りが足し。こんなの子供に見せたらバレエが嫌いになってしまうでしょうよ(苦笑)

バレエ「白鳥の湖」を実は見たことがないのですが、そんな人たちにもわかりやすいように配慮してか?!冒頭のレッスンシーンで監督のルロイが「白鳥の湖とは・・・」と説明してくれるので、私のように通してバレエを見たことがない人でも大丈夫。話にすぐ入っていけます。

ストーリーは公式ページやウィキを参考にしてくださいね。
公式 http://movies2.foxjapan.com/blackswan/

ニナが所属する劇団ではウィンターシーズンに新振付の「白鳥の湖」を上演しようとしていたが、劇団のプリマ(更年期障害の〜とか言いたいこと言われているのですが、このプリマ・ベス役は、あの、あのウィノナ・ライダーですよ。トホホ)はその座から外され、誰が主役をするか噂される中、最後に逆転でニナが白鳥の女王(スワン・クィーン)を射止めましたが、彼女のバレエは「白鳥」はできても「黒鳥」には物足りない。稽古の中でその物足りなさを責められ、自分自身を追い詰めていくニナ。ニナとは正反対のダンサー・リリーが自分の座を狙っているのではないかという不安から幻覚が強くなり、やがて自己破壊につながっていくのです。

印象を一言で言えば、ホラー映画であり、物語自身が「白鳥の湖」でした。
白鳥の湖を演じるダンサーの物語で、清廉な白鳥と官能的な黒鳥という正反対のキャラクターを同じ人間が演じるという二重人格的要素を持つ危うさと、ダンサーそのものが、自ら命を投げ出してしまう白鳥になっていたところの、話の二重の面白さがありました。

ルロイがニナに足りないものは「自分を解放することだ」と言っているとおり、全編に渡って、縛られている自分とそれを否定している自分との戦いでした。
束縛の象徴が元ダンサーの母親であり、完璧に踊っていたベスの存在であり、寝床にあったオルゴール(Music by 白鳥の湖)。
それを否定しようとして、リリーにそそのかされて(!?)出かけた先での酒、ドラッグ、セックス、自慰行為ですかね。(これは妄想の中の話だと理解しているのですが)リリーとの行為の絵図はかなりリアリティがあるのに、全然セクシーでなくて、エロくなさすぎて逆に怖かったです(苦笑)。見ていた私は、一瞬、ニナと同じように「これは現実の方なのか妄想の方なのか?」とわからなくなってしまいました。でも、最後の最後で思ったのは、酒もドラッグもセックスも自慰行為も、結局は彼女自身を解放することはできなかったんですよね。

心身ともにブラック・スワンとなってしまったニナは素晴らしい演技で拍手喝采を浴びるものの、自分のお腹には自分で刺した傷がある。リリーを殺したと思っていたのに、刺したのは自分自身の幻影であり、幻影を産んでいる自分自身だった。自分の一つの人格を殺すことで、解放され、黒鳥の人格が開化したという、めっちゃ哀しい展開でした。解放は、死でしか得られなかった白鳥のようですな。

オスカーを取ったニナ役のナタリー・ポートマンは、1年間レッスンをしたというだけあって、顔が見えているところの決めポーズはすごく綺麗でしたし、身体がやわらかいなぁと思いました。そんなことより、狂気に走っている一つ一つが怖くて、血が出ているのが現実なのか幻想なのか段々見ていてわからなくなって来ました。終盤になって衣装の採寸をするのだけど、そのときの痩せ方がハンパない。追い込み方が尋常じゃなかったです。この狂気と正気の果てを見ていると、人間って案外簡単に自分で壊れてしまうかも、と思ってしまいました。

この映画、女性キャストが印象的だったので、そっちを重点に感想を書くと、リリー役のミラ・キュニスは、メイクから背中のタトゥーから、黒鳥というか、悪魔の印象ですね。悪い方、というか、彼女の深層心理で「解放されたい」という部分を刺激する堕天使とでも言いましょうか。奔放で、そういう意味で魅力的でした。でも実際、こういう人が周りにいたら、ちょっと怖いです。ぱっと見、土屋アンナに似ていました。

母親役のバーバラ・ハーシーは、典型的な溺愛母。おまけに元ダンサーだというのだから娘としては、抗いがたい相手ですよね。娘の事を一番良くわかっていることは間違いないのだけど時にエキセントリックで、それがニナには重荷になってしまうという。最後の方で閉じ込められた部屋から格闘の末出て行くシーンでは、両方が激しすぎて、目を覆ってしまいました(指の隙間から見ていたけど)。

ベス役のウィノナ・ライダー。こんなにふけたっけ?と正直ショックでした〜。まぁ疲れている役だったから、役作りの一環だと信じたいのですが。事故を起こしてしまい、病室に盗んだものを返しに来たニナとの争いの場面は、まさにホラー映画の怖さがありました。ウィノナのこの役作りは、彼女自身の栄光と転落とっていうところをなぞらえているんじゃないでしょうね?と思ったのは私だけではないはずです。

あんまりまとまらない文章になってしまいましたが、現実と幻覚との狭間で葛藤するダンサーと白鳥の湖との物語がぴたっとはまった最後のシーンでのニナが発する

私、感じてたわ。完璧よ。私、完璧だったわ

っていう台詞が、完璧がどれくらいリスキーなものなのかを表現していたように感じました。果たして、正常だと思っている自分って、本当にそうなんでしょうか。もしかして正常だと思っているだけなのかも、しれませんね。