飛龍伝2010ラストプリンセス

飛龍伝 2010ラストプリンセス

石田ひかりが神林美智子を演じた1994年版を観劇し、ツカ芝居に感激した記憶があるこの「飛龍伝」今回は黒木メイサが神林、徳重聡山崎一平(94年は筧利夫)、東幹久が桂木順一郎(94年は春田純一)でした。他のキャストには、カラテカ矢部太郎、舘形比呂一、馬場徹、殺陣はこの人清家利一、なぜか夕焼け大将の大江裕が特別参加ということで、最近舞台を見ていないからか、「え、この人ツカ芝居やるんだ?」って感じた人が多かったです。

女心男心一つ救えず、なぜに国家が救えます─

あの時、学生たちの間を吹き抜けた革命運動の嵐─。
ひとりの女が、全共闘の委員長に祭り上げられた。

女の名は神林美智子─
利用したのは学生運動のカリスマ・桂木順一郎。
作戦のために、敵対する機動隊員・山崎一平のもとへと美智子を送りこんだ。
しかし、いつしか二人は深く愛し合うようになっていた─
激しい闘争の日々に芽生えた許されぬ愛、揺れ動く三人の心。
しかし運命の戦いの日は近付き─。


つかこうへい作品の中でも屈指の人気作『飛龍伝』。1973年に産声を上げ、世を、権力を、魂を、問い直してきた、伝説の作品が『飛龍伝2010ラストプリンセス』として新たに蘇る

というのが、チラシ等での宣伝です。

今回はサブタイトルで「ラストプリンセス」とついているように、美智子は琉球王朝最後の王妃と神林の父との望まれない子供で、家族の愛を知らずに育った。IQ290で東大で原子力を勉強している設定(もちろん日本政府はそれに目をつけている)。日本が核爆弾を製造するために東海村で臨界実験中に事故を起こしてしまう、沖縄へ核爆弾を作るカモフラージュのための原子力発電所を作る計画がある・・・太平洋戦争中に日本本土は沖縄を見捨て、そして今度は核爆弾のために沖縄を捨てるのか、というサブストーリーを絡めていました。鳩山−小沢の時事ネタや、YES高須クリニックも登場し、桂木はアデランスCMネタで神林は笑うのを我慢するのに必死でした(笑)

しかし、そういうつかさんらしさがあった舞台ではありながら、観劇後に思ったんですけど、宝塚によくある!?「初日公開リハーサル状態」に陥っていたように思います。細かいことを言えば・・・長く一気にまくし立てる重要な台詞(神林がどういった人間なのかを説明する、かなりの見せ場)を途中で忘れてしまったのか、台詞が止まりまくった舘形さん。見ている私の方がぞっとするくらいの怖さ・・・。他のキャストも噛みまくり、勢いが止まってしまうことも多々ありました。ハコも大きすぎると感じてしまうほど、空間を感じてしまいました。
また、隣のおそらく20代後半から30代前半の女性だと思うんですが、一幕中に飽きモードになっているという状況。う〜ん、おかしいなぁ、こんなんだったかなとしばし考える私。
メインキャストからアンサンブルまで「全共闘って何?」という年代のキャストなんです。わからないのも当然なんですよ。思い切り昭和テイストのあるこの作品の熱が一幕については残念ながら空回りしていたんだと思います。二幕からようやく立て直して、桂木も一平も魂入ってきた感じはしましたけどね。だから、観客の前で公演を重ねていくうちに、つかマジックが体に入っていくんじゃないかと思いました。

つかさんの芝居って、マイノリティをこれでもかこれでもかと圧倒的な熱でてんこ盛りしていきながら、その混沌の中で見える真実を感じるのが真骨頂なんじゃないかなぁ。それを可能にするには、キャストが追い込まれて追い込まれて、はき出される感情と共感することで感動が得られるんじゃないかと思うのです。たとえ、全共闘っていうのがどういう戦いだったかわからなくても。もしかして「わからない」ことを理由にしてしまったのだろうかね。今回、つかさんが最後の仕上げまで直接指導していないのが影響しているんだろうかと思ってしまうほど、若干バラバラ感がありました。
それと、メイサちゃんは踊れているんだけど、男のメインキャストが全く踊れなくて正直ドタバタで。比較したくないが、94年版では前から後ろまで恐ろしく踊れていたよ〜〜(泣)野田さんがワークショップをして運動能力を高めているのは、劇団でダンスを練習するのは意味があるんですね。踊れなくても舞台芝居はできるでしょうけど、舞台芝居ができる人は踊れますわね。

メイサちゃんの神林。カラテカ矢部が「ブスブス」と最初台詞で言うんですが、こ〜ら〜と思う程、きりっとしててかっこよかったです。今まで見た女優さんで、舞台メインでない人でここまで殺陣が映えるのって天海しか見たことなかったけど、見事に上手かったですね。もう少し台詞張ってもいいかも。ある意味見栄を切ってもいいのではないかと。全共闘の委員長だからねぇ。カラテカ矢部に犯されるシーンとか、確かにあの若い子が口に出すには恥ずかしいだろう台詞を、もう少しぶっ飛んでくれて欲しいかも。

徳重くんの一平は・・・正直一幕は相当厳しかったです。体がでかいのと舞台慣れしていないので、身の置き場がないモードに入ると妙に空間感じてしまうんですよね。あと声ができてなかった。テレビの人だから仕方ないか。最後の福岡公演では大化けしていることを期待。

ミッキーの桂木は、二幕が圧倒的に(一幕比ですが)良かった。この公演でもしかして一番化けるか?と期待できる人はこの人かもしれないです。ミッキーも声ができていないんだけど、一幕終わって追い込まれた感が逆に一気に伝わってきて、良かったなぁ(変?)

タテさんは、最初に書いたように一幕で台詞がぶっとんだところがあって、正直私の方がぞっとしたけど、ダンスシーンはものすごく楽しそうだった(笑)それでも二幕の見せ場ではミッキーと同じく追い込まれた感がびしびし伝わってきて、あら涙が・・・。しかしつか芝居に出るとは思わなかったなぁ。

大学のセクトでキャスティングされていた方は、北区つかこうへい劇団の方なんですかね?バキバキしていて、こうでなくちゃという気持ちになりました。あと殺陣指導もされていた清家さん。いてくださって有り難うです。

観劇後にこのキャスト以外でキャスティングしたら?と考えてみました。神林はメイサちゃんでいいとして、一平は染五郎、桂木は堤さんか堺さんとかどうだろう?あぁでも、もう一度、筧・春田コンビで見てみたい!ビデオ出ていないのかなぁ。