宙組 ホテルステラマリス

平成17年4月3日 宙組「ホテル ステラマリス」東京宝塚劇場

BOXMANで「今の宝塚で正塚作品を上手く演じられるのは宙組トップコンビじゃないか」とくしくも思ったところでの、大劇場作品「ホテルステラマリス」である。今年の宝塚大劇場作品ではかなりポイントが高くなりそうだ。この日誌を書いている6月のスカステでは、「BOXMAN」の東京千秋楽公演が放映されているので、それを見てもらうといいかもしれない。

私は最近、正塚先生の作品で次のようなギネンを持っている。

一つは、正塚先生は自分の好みにあわせて役柄の深みが変化する。
二つ目はトップ娘役以外の娘役に無頓着である。
最後に、興味がないと作品にも深みがない。

特に二つ目の事項については、我が姫に関する私怨でもある(苦笑)今のお嬢さんの話ではない。
ま、そんな疑念を持つ先生の作品には、作品によって本当に深く感動したり、劇場支配人につかみかかりたい衝動を抑えるのに大変だったりとあるのだが、この「ホテルステラマリス」については、最近の大劇場作品の中では上手く作ったなと思えた作品だった。
宙組にありがちな「でも結局この作品の主人公ってさ・・・」なんていう二の句が出ないような、最後までかなりウィリアムスが主人公で物語が進んでいったのが、昔の正塚先生の作品によくあった「男の生き方」をちらりと匂わせる。

話は、とあるカリフォルニアの海辺にある老舗ホテルのステラマリスが舞台。
ロンドンからホテルのリサーチ(実は背景にはホテルの買収が絡んでいた)を命ぜられたエリート社員・ウィリアムスと、副支配人のステイシー(実は社長の娘でもあり、支配人のアレンは許婚)をはじめとした従業員たちとのホテル再建をテーマにした話の縦軸に、ウィリアムスと婚約者のアリソン、ステイシーとアレン、そしてウィリアムスとステイシーの恋愛を横軸にした物語である。

まず面白かったのが、ウィリアムスとステイシー、ウィリアムスとアリソン、ステイシーとアレンの4人が、いいバランスで絡み合っていたことだった。最近の正塚先生の作品はあまりガッツリとメインキャスト同士が絡んでいるように思えなかったので、対立があったのは良かった。そのためかなり割りを食ったのがW二番手扱いのタニちゃんである。今回はタニちゃんが泣いてくれたからこそ、4人の絡みが面白かった。

いや正直言えば4人のキャラクターが面白かった。ウィリアムスとステイシーは期待を持たせた繋がり方で、ちょっぴり若々しさなども演出されていた。ベテランコンビに対するイメージの配慮を感じる。また、花總さんはやっぱり巧いので、お芝居の安定感が違うのだ。たかちゃんが滅法顔に疲れがあったのが気になったのだが、コミカルなやり取りはBOXMANの時と違わず、花總さんの見事な合いの手とマッチしてぐいぐいと話を進めていった。

4人の中でもアレンは印象的だった。はっきり言ってウィリアムスとバトる訳でもなく、かなり防戦一方の優男系である。前半やり手ぶりを見せるウィリアムスと対照的に描いていて、だからウィリアムスが後半に人間性を押し出す際のお膳立て役になった感もある。
それだけではなく、許婚であるステイシーの心がウィリアムスに行ってしまったことに対して、それこそ「海のように凪いだ広い心で」小さな船を送り出すのである。昔の作品ならば主人公が「お前なんて最初から愛してない」と直接的に言葉を吐いて、女が雨の中泣き出して行った後に、壁に向かって拳骨をかましているところだ。
今回「愛した女性を生かすのが男の優しさだ」というメッセージと、それが組替えとなり宙組を出て行くミズのイメージを押し上げる。ステイシーとの海辺の場面が秀逸だ。見た目でははっきりしているのに、男役の個性としては案外曖昧だったミズのイメージが、優しさと包容力を持ち味の男役として最大限引き出していて、歌い上げながら場面が展開している様がこの作品の名場面だと個人的に思っている。つうか、正塚先生、アレンを書きたかったんじゃないの?(笑)

反面、個人的にはこういうきつい感じのキャラクターは好きなんだけど、ちょっとハリーやりすぎなんじゃない?と思ったのがアリソンだ。
ムラバージョンを見たファン曰く「アリソンのキャラクターが全然変わった」らしい。(相当印象が変わっているらしい)彼女は普段の言動からするとかなり演出家の意図や指示に忠実だと思うので、東京に来てから演出意図が変わったのか?と早くムラバージョンの放送が見たい気がしている。
私が東京で見た感想でいえば、お金持ちのお嬢様のプライドの高さとウィリアムに対するというより自分に対するものすごい自信と気位に溢れていて、ややもするとステイシーの「強がってはいても弱いところのある可愛い女性」のお膳立てになってしまってやしないか?とさえ思った。アリソンが強めだったので、ウィリアムがステイシーを選んだ理由がとてもわかりやすいし、ウィリアムスの傲慢だったロンドン時代のグレイな雨が似合う男からカリフォルニアの青い空でウォーキングが似合う男に変わってしまった・・・くらいの変化のわかりやすさの一助にもなっている。まさかわかりやすさのためにそうなってしまったのではないよなぁ。
ま、そんなことは置いといて、非常に生々しいアリソンだった(笑)。特にウィリアムの胸に抱かれながら台詞を言うところなんて、リアルすぎて興奮してしまったアホな私である。またしても「正塚先生、アリソンみたいな女性が好きなのか?」この生々しい場面と共に、ステラマリスを去るところでアレンの声掛けに毅然と去っているアリソンもぎゅっとくるくらい好きです。

正塚作品に忘れてはいけないのは、ランカスター社長役のまやさん。BOXMANでも思いましたが、もうひいきの役者というより、正塚作品の影の立役者ですよね。コミカルな芝居が軽いだけではなくて、ずっしりとメッセージあるからなぁ。まやさんと若手の生徒さんともっと絡むような場面を作って勉強させてほしいなと思う。

群集芝居が多い下級生でも、ところどころに小芝居場面があったので、楽しそう。もちろん台詞があった方がいいでしょうけど、それはそれで好印象だった。

とってつけたような殺人事件とともちんを優しく迎え入れるステラマリス、1人のお客様でも末永く大切にするステラマリス、ホテルを大切にするスタッフ・・・物事の全ては人に返り、帰る。歴史のあるホテルステラマリスと人を大切にしようとするメッセージは、正塚先生から送るそのまま劇団に対しての批判のように思えて、二重に楽しめる作品だった。

追伸:しかし、ウィリアムスとステイシーの会話の中の「これか   ら始まる」というくだりはいろんな意味で汗をかきまし    た。