さすらいの果てに

2005年04月17日 雪組「さすらいの果てに」バウホール

スカステで3ヶ月後には放送されそうだが、是非にということで雪バウ「さすらいの果てに」を観た。壮くんバージョンである。作・演出は中村暁先生。
久しぶりに耳心地のいい主題歌=覚えやすい主題歌でほっとした。舞台はシンプル(というよりほとんど細かいセットがないという)であるが、ゆうちゃんさんを含めた15名でどんな物語が展開するのかなと、見ていた。

予想を裏切らない展開と、宝塚的なモチーフ盛りだくさんな作品は、いつものように分かりやすく、深みはない。悪意がなくて無邪気に見られるが、平面的で起伏がない。複雑ではなく、伏線はない…ラストの場面は冬のソナタの最終回でサンヒョクとユジンが友達の子供をあやしている姿を見て、誤解するチュンサンと構図が同じだったりする遊び(あるいはマジ?)があって、ベタなテイストが初見の人には案外受けるかもという感じである。中村先生には宝塚的なものを見せようという気持ちがあるから、単純にダメを出す気にはなれないが、ある程度のキャリアなんだし、もう少し人を動かして、話に膨らみを持たせる努力はしてもらいたいと心から願う。

話は、ロンドンの名家に生まれたが家庭を省みなかった父に反目し仕官した主人公。父の本当の心を理解できず、冤罪のまま亡くなった父の汚名を晴らすために復讐を誓う。

戦火が激しくなり北アフリカに赴任した主人公はその地で親友となる上官と部下に出会う。

主人公は父を陥れた犯人を追い詰めるが、折しも襲ってきたムハマド兵との戦いの中で見失い、やがて親友を亡くし自らも深い傷を負った。

ロンドンでは主人公を待つ幼馴染みであり、恋人がいたが、彼の戦死公報を見てもまだ彼が死んだことを信じられない。

主人公はカイロの病院で一命を取りとめ、そして偶然に父を陥れた男に再会する。余命幾ばくもない男は、自らの遺書の中で真実を語り、主人公に託して絶命する。

ロンドンに戻った主人公はかつての我が家が売りに出され、自分は死んでいることになっていたことを知る。しかし主人公の生還をひたすら待っていた幼馴染みと再会し、二人は生涯を誓うのだった。

という話。もちろん中村作品にはお約束のフィナーレはついていてお芝居で消化不良になっても、タカラヅカを堪能できる。終わり良ければ全てよし、だ。

こう書くとあたかも気に入らない作品だったの?と思われるかもしれないがそうではなく、下手な政治的メッセージを大上段からもの申すキムシンよりはかなり好きだ。愛らしいとさえ思う。彼はただ場面と人を組み合わせる技術が単調なだけで、心は宝塚を愛しているから。

だが、とにかく単調で、伏線がないから、登場人物がいちいち説明しなくてはならない。その割には一場面に出てくる人数がMAX4人で戦場の場面以外は、ツーショットが基本。大体、戦場なのに3人しか兵士がいなくていいのか?。ホントに小隊だよとツッコミが入る。聞くところによれば、どうやら作者本人はツッコミどころ満載の作品を書いてしまったことは良くわかっていて、自分でもツッコミを入れてるらしい。まったく罪作りな人だ。
たった15人の出演者なら、どんなに忙しく、次の場面では味方が敵になっても、人を回して舞台を埋めた方が、個個人の技量を補えるはずだ。

作品の中身に話を戻そう。
父の汚名を晴らすために主人公は黒幕を追い詰めるが、そこでの黒幕の悪巧み、あるいは主人公を送り出してから戦死公報を見るまでの幼馴染みの心の揺れを場面として早めにきちんと描く。そういったことをするだけで後半に次々と起こる試練がより涙を誘うハズだ。彼はこの一手間を抜いたことで、感動というよりはトホホな涙を流させてしまったのではないか。私なら戦場のシーンを削っても、市役所の役人と大尉の裏取引の場面を一幕に突っ込みたいし、最後に幼馴染みに「早く彼を忘れて」と諭す近所の夫人との場面を付け加える。…ま、こういう「私ならこうする」もある意味楽しいが、生徒はどうなんだろうか??

主人公を演じる壮くんは、軍服が似合う、好青年だった。嫌味のないキャラクターそのもので、幼馴染みを思う気持ちも真っ直ぐ。ある意味、恥ずかしいくらいの白さで、こういうキャラクターも貴重かも。反面、憎しみを表現する時には単調になってしまうのが惜しい。演技の幅が必要か。歌が劇的に良くなっていて、覚えやすい主題歌と共に耳心地よく聞けた。

幼馴染み役には涼花さん。初ヒロインですが、なかなか落ち着いていたかなと。一幕はともかくニ幕は山の彼方とかで登場することが多かったから、ガッツリ芝居していた印象は薄い。歌は声はいいけど、細くて安定感にやや欠ける。

主人公の上官はかなめちゃん。背が高く、いささか態度も大きいところがかなりハマっていた。このキャスティングは巧いね。地元の娘を愛して、母の形見の指輪まであげたなら、主人公のジェフリーも彼の父の元に連れて行ってあげたらいいのに。壮くんと一緒に歌う場面があるけど、いがいに歌が細い感じがした。

黒幕の大尉にはキタロウ。う〜ん彼女はイマイチどの役も同じに見えてしまい、フラットな印象を受けた。大体、自分は関わりないと断言してるのに、ジェフリーを殺しに行こうとするんだからねぇ。ってそれはキタロウのせいじゃないけど。想像の範囲内の芝居だった。

中尉の現地の恋人には神さん。う〜ん、こういう設定なのにシドコロがないようなそもそもの書き方が悔やまれる。ダンスではダンサーらしく活躍していた。

主人公の父と、中尉の父役でゆうちゃんさん。多分二人の父の役を演じさせることにより、主人公が最後まで分かち合えなかった父と重ねているんだろうと思いたい。ゆうちゃんさんに泣かされた。

ゆうちゃんさんを追い詰めるのはスコットランドヤードの警部役でにわさん。冒頭しか出てこないがなかなかヒトクセある警部だった。一人で「○○警部です」と名乗るより、できたら部下の一人でも出して言わせて欲しい。それと、相手のセリフをもっと聞いて受ける技術が必要だ。一気に話すぎて聞いていて息継ぎしたくなった。

最後に幼馴染みに諭す夫人と冒頭の舞踏会でジェフリーを取り囲む令嬢、それに果敢なムハマド兵で活躍したのはかぐやちゃん。かわいいから何でも許す(笑)というか兵士のところでは、砂漠の黒薔薇ででっかい宙組が来てた衣装を翻し、アクションシーンが決まっていてかっこよかった。ニ幕の比較的長いセリフは、声が聞きやすくアメリカン・パイの時より上手くなっていた。今の雪組を観る楽しみの大きな一つだから、絶対に新公卒業で辞めるなんて言わないで欲しい。

こんなにセリフを言ったのは初めてだろう谷みずせさん。やや線が細くて女の子オンナノコしてる雰囲気はあるが、今回頑張っているという思いが伝わってきた。美形だから軍服も似合うしね。

看護師さんの役は大月さん。
昔、雪組にいたみりこ(貴咲美里)に雰囲気が似ている。硬い感じがするのは慣れていないからだと思う。今後は手を取ること一つにしてももう少し細かさがあるといいな。多分この看護師さんは主人公を好きになっていたんだろうし、たおやかなところがあるといい。

ともあれ、シメさんが演技指導しているだけに昔の星組かと見間違うようなクサさがぷんぷんしていて、面白かったです。

後半のチーム(音月版)はどんな雰囲気になるのか、これはさすがにスカステで確認ってことになりそうです。

2005年05月01日再編集